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Channel: 「木の家」コラム –キノマチ不動産
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戸建てリノベを増やすには「残す」「壊す」の線引を決めるべき

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中古マンションのリノベーションは盛況、空き家対策も官民あげての過熱っぷり、でも戸建てリノベってあまり聞きません。戸建てリフォームして販売は昔からよくあります。しかしながら、戸建てリフォームと戸建てリノベでは大きな隔たりがあるのです。

隔たりの要因は主に2つ

  • 価格面(市場性)
  • 法律面(遵法性)

この2点はあとで解説します。私は要因を理解した上で、無理を承知で「タイトル」の提案をしたいと思います。すなわち、

この家を「残していい=リノベーションして再度利用してもいい」と「壊して再生するのならOK」、最後に「壊して更地にしなければだめ」の3つに誰かが決めて、我々はその決定に従わなければならない。

「誰か」とはお上であり現実的には都道府県知事の命で市町村長が決めるという形でしょうか。無論財産権の侵害にあたるでしょうから実現は出来ないと理解した上で、妄想にお付き合いください。

まずそのような考えに至る理由は冒頭の戸建リフォームと戸建てリノベとの隔たりにあります。

戸建リフォームはできるが戸建てリノベはできないわけ

  1. リノベは費用が掛かりすぎで市場価格より外れてしまう
  2. リノベをするには法律を守る必要も出てくる

1.リノベは費用が掛かりすぎで市場価格より外れてしまう

リノベーションの定義は最近適当ですが、「再生」というとオシャレ系、「大規模改修」というと実直系だと思っています。さあ戸建てをリノベーションしようとすると、やれ基礎を補強して、躯体も補強して壁を増設して、屋根を取り替えて、耐震基準OK、断熱材も入れて温熱対策OK、それからやっとデザインや水回りをかえて、改修費1500万円です。

というのが、リノベーション(大規模改修)です。

一方リフォームは耐震改修する場合もありますがレア(業者によっては新耐震基準前は手を付けない)、水回りとクロス張り替えて、なんとなくかっこよくして、さあ戸建て2000万円で売却します。

場所にもよりますが、2000万円でそこそこ中はキレイでお風呂とキッチンが新調されていれば、普通または少々世帯所得が低い方でも手が出ます。よって戸建ての買取再販業者で伸びているのは、この価格をまずありきで決めている所なのです。

結局は手に入れやすい価格で見た目重視のリフォームができているかどうか、それが中古リフォーム市場の現状になります。

ちなみにリノベーション(再生)は、例えば倉庫を住宅にしたり、小屋を住宅にしたりと価値観の再生なので、やはり耐震性とか断熱性とかは2の次であることが多いです。

では、あなたの住みたいエリアで新築が3000万円程度(この新築の値段ももちろん買える値段設定を考えて値付けしています)、リフォーム済中古が2000万円、戸建てリノベが3000万円とすると、どれを購入しますか?

・・・ほとんどの方は新築か、リフォーム済中古を買うでしょう。戸建てリノベはきちんとすると費用がかかります。場合によってはというか多くのケースで新築以上です。そうすると価格競争力がないのです。ですからきちんと改修した物件を世に出したいと思っても現実的ではなく、リフォームだけでお茶を濁さざるを得ません。

2.リノベをするには法律を守る必要も出てくる

もう一つの視点が法律=建築基準法です。

「確認申請」これがとても重たいワードとなっています。

建築基準法第6条第1項に記載されていますのでご参照下さい。

リフォームは確認申請しなくていいはウソ

正直いいまして、ごく真当な業者様や設計士でもグレーにしている方は多いと思います。ようは確認申請が必要なリフォームでも確認申請をしない、ということです。

遡及適用といいまして、一定規模の修繕をする場合は現行基準に適合して下さいということを求められます。これが1にも関係しますが費用がかさみます。特に古い物件であればあるほど、現行の基準からは大きく異なっていますから、大きな要因を占めます。

また、建物だけの問題であればまだいいのですが、例えば敷地がセットバックしていなかったり、違法な増築をしていたりすると、その修正や登記等、現行基準に適合するだけでも大掛かりになってしまい、どちらかというと敷地や建物が減少する方向に進みます。

これをわかっている賢い施主はあえて新築をせずにリフォームすることで建物や敷地の規模を守ること選択しています。新築にすると面積が小さくなりますから。

でも果たしてこれが本当にいいことなのでしょうか。それは公平性もありますが、セットバックしていないことにより消防車が入れなくて延焼が広まる、耐震要素が足りないことで地震の際に一部倒壊して道を防ぐ、など自分だけではなく他者に対してももしかしたら悪い影響を与えることだってあるのです。

私は上記理由から

「中古物件は、治せない(リノベーションできない)なら壊すべき」

と極論的に思っております。あと2つの視点を述べます。

新耐震基準の建物だからって安心できないわけ

現行法の最低基準の耐震基準が新耐震基準であるかどうか、ということになります。新耐震基準は昭和56年6月1日の建築基準法改正の前後の建物かどうかで判断されますが、実はその後も改正を重ね、2000年の改正により品確法の耐震基準(1,2,3)ができさらに強化されました。

では新耐震基準以降の1982年~2000年の建物、または2000年以降の建物は安心なのかといえばそうではありません。それは確認申請→完了検査をきちんと受けているのかどうか、という点があげられます。

2005年に大きな事件がありました。通称A事件、耐震偽造問題です。これにより確認申請から(中間検査)→完了検査の重要性が見直されました。そして2007年に建築完了検査が厳格化されたのです。

逆に言えば、1982年から2007年の間の建物は確認申請時には確かに新耐震基準や品確法の耐震基準を守っていたのかも知れませんが、完了検査を受けていない建物や厳格化されていない完了検査であった場合は、その数値が信頼できないのです。実際この時代の建物はコストカットの余波を受けて粗悪なものも多かった時代です(それがA事件にもつながったのですが)。

住宅ローンでは木造住宅は20年以内の建物なら自動的に対象となります。今から20年前は1999年。1999年~2007年の中古住宅を買われる方は安心せずに要チェックと言えるでしょう。

以上厳しくいいましたが、この時代の建売住宅なんかは粗悪なものが多いです。それをそのまま使うのは健康を損ねる可能性があります。リノベしてよくなるのであれば(基本的には遵法しているので)壊さず住んでもいいかなとは思いますが、見た目だけのリフォームするのであればやはり専門家の目を入れるべきだと思います。

共建築設計事務所様作成資料より

空き家再生はほんとうにいいの?

良くないものを良くないまま見た目だけ変えて再生ししています、というのは辞めようと上記で述べてきました。リノベーションするか、壊して建て直すか、壊して更地にするか。

でも、建物がどんな状態であれ壊したほうがいいというのもあります。

「ぽつんと一軒家」というTV番組が高視聴率らしいです。私も何回か見ましたが、なぜこんなところに、という背景に人間模様があって確かに面白い。でも殆どが廃屋になっているんですよね。で、壊すこともなく半分捨てられた状態のまま。

高度成長期にこれでもか、という場所に家を建てました。神奈川県のとある地方や神戸、広島など山と海との間に建てる地域は、長い階段の先にある家、土砂災害の発生エリアに並ぶ家、無理やり再開発した家が多々あります。あるいはバブル期のリゾートマンションやリゾートホテル、付随する建物たち。。

ぽつんとした家、アクセスの悪い家、災害の危険性が高い家、、これらを維持するにもインフラが必要です。道路や水道、電気の他にも除雪や配達学校など、様々なコストが日々かかっています。大昔のように電気だけでほぼオフグリッドならいいですが、今の家では少数でしょう。何が言いたいかといえば、その家を再生したばっかりに本来なら掛けなくて済んだインフラ等の整備コストが長い期間渡ってさらに掛かるということ、受益者負担もあるでしょうが、そのほとんどが税金というみんなの負担によってまかなわれるということが果たしていいのでしょうか。

そんな不便で見向きもされないエリアを再生して、「どれ見たことか」という事例をみると根本的な矛盾を私は感じます。ですので、冒頭の妄想、誰かが壊して更地にしなければだめ、と決めて欲しいと思うのです。

都市計画にはそもそも市街化調整区域という市街化を食い止めるエリアが定められていますが、この話は「老いる街 崩れる街」(講談社現代新書)で詳しく書いていますので興味ある方はお読み下さい。

家や土地は個人の財産ですから、口出しすることはできません。が、引いた目で見て大局的に本当にこの建物再生していいの?と、中古戸建に関わる人には問いただして欲しいと思います。


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